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[Vol.096 2025年6月号]
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~破滅への黙示録!!カタストロフィーは突然に~ キラルカラムにポリスチレンポリマーを打ち込んでみた

「キラルカラムにポリマー(ポリスチレン)を打ち込んでみたら…」

昨年10月号にて、「血漿サンプルのタンパク除去処理の手を抜いてみたら… 」というタイトルで、“市販血漿品の徐タンパク処理怠けたサンプル“を逆相条件での連続注入試験結果をご紹介させて頂きました。
今回は、順相条件で、ポリマー (ポリスチレン) の連続注入実験を行いました。想定は、有機合成反応後に精製を全くしないで、汚いもの=タール成分 (よく「ポリメった」などと言ったりしますが) を含むサンプル事前精製なし (=やっぱり手抜き) のまま打ち込みました… というモデル実験のつもりなのですが、汚いもの=タール成分 がなかなか手に入らないので、ポリスチレンを代用させた次第です。結果は、予想通り、というか、当たり前の結果になりましたが、これも良いマネの宿命なので、躊躇わずにご紹介させて頂きます。
"汚いもの、のモデルサンプルポリスチレン"ですが、サイズ排除クロマトグラフィーに使用する"標準ポリスチレン (PS、分子量:33,400、東ソー社製) " を使用しました。(東ソー様、御社のサンプルが汚い、などと言っている訳では全くございませんので、何卒、ご容赦のほどを…)。

①初期性能評価、試験終了後評価と、②注入試験条件は下記の通りです。

【分析条件】

カラム:
CHIRALPAK IH-3 (0.46cmI.D. x 25cmL)
移動相:
n-Hex/IPA = 9/1 <v/v>
流速:
1.0 mL/min.
温度:
25 ℃
検出:
254 nm (UV)
②のサンプル(完溶していました)
トレーガー塩基 (TB)

※注入条件 (濃度および注入量)
① 初期および最終評価:10μL (トレ-ガー塩基(TB):0.5mg/mL (n-Hex./THF=7/3 <v/v>))
② PS注入試験:10μL・PS+TB溶液 (PS:0.1mg/mL、TB:0.5mg/mL (n-Hex./THF=7/3 <v/v>))

まず、試験前評価を行いました。その後、注入条件②で、PS+TB溶液 (n-Hex./THF) をn-Hex./IPA移動相条件で繰り返し、打ち込みました。

<連続注入試験前・評価クロマトグラム (注入条件①) >

t1 = 6.02, t2 = 9.57
N1 = 10,428, N2 = 3,728
α = 2.18、R = 8.27
圧力 (装置+カラム) : 6.1MPa (青ライン)

その後、注入条件②で、ポリスチレン(PS)トレ-ガー塩基(TB) 連続注入試験を行ったところ、37回目のインジェクション直後にHPLC圧力が増大して、設定した圧力上限値 (設定値:20MPa) に到達してしまいポンプ停止してしまいました。従って37回目のクロマトグラムデータは得られませんでした。
クロマト初期性能評価も含めた、その間の、保持時間(t1)、理論段数(N1)、分離係数(α)、分離度(R)および圧力(装置+カラム)の推移を下記にお示しします。

PS+TBサンプル(THF溶液)を36回まで打ち込んでも、クロマトパラメーター (t1, N1, α, R) に変化はほぼ見られませんでした。これはちょっと意外でした。ただし圧力Press.(装置+カラム) は、10回目の打ち込み以降、徐々に高くなっていくことがわかりました。36回目打ち込み後の圧力=9.2 MPaから、37回目打ち込み時に、一挙に2倍以上の圧力、≧20 MPaに到達してポンプ送液が止まってしまい、37回目の分析は出来なかった、という訳です。
さすがにTHFに溶かしたポリスチレンをn-Hex/IPA = 9/1 移動相で打ち続けたので、いずれは詰まるだろうなあ、とは思っていたのですが、徐々にではなく"突然に破綻"したのが、ちょっと意外でした。
で、ここからですが、圧力上限を超えたためポンプが動かないので、カラムを外してユニオンで直結したところ、問題なくポンプは送液を開始しました、ということは、"サンプルループ~カラム直前までの配管"ではなく、カラム内部で詰まったということ… うっ これは絶対にヤバいぞ!

そこでTHFをカラムヘッド(指定通液方向)から流速:1.0mL/min.で通液してみたところ、排出液が流れ出し、同時に圧力が徐々に低下し、30分後には、ほぼ一定の圧力(9.9MPa in THF)となりました。
このカラムに対して、初期評価と同じ条件(注入条件①)で分析を行ったところ、ほとんど結果は変わっていませんでした。

<連続注入試験後・復活カラムの評価クロマトグラム (注入条件①) >

t1 = 6.03, t2 = 9.57
N1 = 10,938, N2 = 3,996
α = 2.19、R = 8.49
圧力 (装置+カラム) :6.2MPa (青ライン)

うっ 凄い… このカラム、一度は窒息して "三途の川をお渡りになる直前の川っぺり" まで行ったようですが、どうやら無事に現世に戻っていらっしゃったようです。ただし、こんなのはレアケースで、
大抵の場合は、(THFなどの)良溶解溶剤を通液しても閉塞が回復せず、通液出来ないままに使用不可となることの方が多いです。
今回はモデルケースとして標準ポリスチレン・サンプルを使用しましたが、実際には、あまり 汚いサンプル を直接、カラムにインジェクションするのは、絶対にやめて下さいね。今回みたいに、無事に生還できるとは限りません、本当に本当です
でもそのための備えとして "ガードカートリッジ" という、カラムプロテクト製品もありますので、ご心配な方は是非、ご活用くださいませ。

★まとめ

前回、生体試料をインジェクションする場合、徐タンパク処理の手を抜くとカラムに悪影響を与えることを報告しました (2024年10月号)。今回はその順相版です。有機合成反応でよくあるポリメッた汚いヤツが混入した(を想定した) モデルサンプルをインジェクションしてみたら…を検証しました。これもまた「そんなこと、やらなくても分かっているよ」 と言われそうですが、やっぱり実際にやってみると、いろいろと、わかるものですね… "カラム圧は上がっても他のパラメーターは変化しない"、とか"カタストロフィは一気に訪れる"、とか、"仮死状態になっても蘇ることもある" など… (でも、レアケースと思うので絶対にマネしないでくださいね) と、いう訳で、カラムの寿命を長持ちさせるためには、前回の徐タンパク処理と同様に、有機合成反応後の汚い成分(タール分など)もしっかり除去して行ってくださいね。
前回も告知しましたように、これまで記載した「良いマネNo.1~No.7」までを収録した冊子体を作成しております。これまでの「良い子はマネしないで」シリーズをご覧になっておられない方、当社・展示ブース等に置いてありますので、是非、お手に取って読んで頂き、"何てバカなことをしているんだ"と、話のネタにしたり、"反面教師として学生様などへの教材"にご利用頂けますと、望外の喜びでございます。

ファーマテックBU ライフサイエンス研究開発センター 所長補佐 大西(あ)
協力:同・研究開発センター 元田

日本核酸医薬学会 第10回年会
開催のお知らせ

日本核酸医薬学会第10回年会開催のお知らせ

学会設立10年目を記念する日本核酸医薬学会第10回年会が、神戸国際展示場において2025年7月1日(火)~3日(木)の3日間、開催されます(プレシンポジウム は前日の6月30日(月))。本学会は、化学、生物、送達(デリバリー)、医学・臨床、レギュラトリーサイエンスという5つの分野にまたがる広範な研究内容および専門情報が共有、議論できる場であり、年を追うごとに参加者、発表数が増えています。10回目のテーマは 「Decades, これまでとこれから -創薬力の結集と更なる広がりへ-」 として、次なる10年に向けた熱い討論が期待できます。
当社から、カラムクロマト法による核酸化合物分離・精製をテーマとしたポスター発表を行います。また展示ブースも出展いたします。キラル分離だけでなく、難しい分離対象物に対してソリューションを提供するダイセルの発表、ブースに、参加の折には、是非、お立ち寄りくだされば幸いです。

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